お釈迦様は、人間誰もが受けなくてはならない苦しみとして、次の八の苦(いわゆる四苦八苦です)を教えられました。
八苦とは、生苦(生きる苦しみ)老苦(老いる苦しみ)・ 病苦(病気の苦しみ)・死苦(死の苦しみ)の四苦と、それに 愛別離苦(愛する人と別れる苦しみ)・怨憎会苦 (嫌な人に出会う苦しみ)・求不得苦(求めるもの が得られない苦しみ) 五陰盛苦(心身の欲望が燃え盛る苦しみ)を加えて四苦八苦の苦しみを言います。
これらは、学歴・地位・身分・財産・年齢・ 性別に関係なく、この世を生きる私たちが必ず受ける苦しみで、「老苦」もその中の一つと説かれました。
現代の日本人の平均寿命は男性が約八十歳・ 女性が約八十七歳、日本は世界一の長寿大国と言われるようになって久しい。
では長寿になり、私たちの「老苦」はなくなったのでしょうか。確かに寿命は伸びました。
しかしだからと言って「老苦」も「病苦」も「死苦」もなくなってはいません。単に先送りされただけなのです。しかも幸せな老後のためには年金だけでは足らず、二千万ものお金が必要だ、などと言われます。単純に長寿を喜んでいられない時代なのです。
「生きる」ことは四苦八苦を耐えることと、お釈迦様は説かれました。つまり、「長寿」とは 「苦」を長く背負うことであり、長寿を願う人 はその覚悟で「生きる」ことが必要なのです。
「老」には、肉体的な老いと心の老いがあります。
くどくなる 気短になる 愚痴になる 心がひがむ 欲深くなる
とは心の老いを詠んだ古歌です。
体の老いは他人を害することはありませんが、心の老いは自分が気づかないうちに内面から自分を蝕み、その毒は自分だけではなく他人も不幸にしてしまいます。
「老」が「苦」となる原因は「心の老い」にあるのではないでしょうか。
サムエル・ウルマン(アメリカの実業家・詩人)は「歳を重ねただけでは人は老いない。理想を失った時に「老苦」がくるのです」と説いています。
私達は、この娑婆世界を浄土にするため、「地より湧き出た菩薩」だと法華経に説かれています。長寿は仏様からいただいた「いのち」。単に長寿を願うのではなく、「地涌の菩薩」の志を胸に日々を生きる。それが「老苦」を取り去る妙薬なのではないかと思います。